数式に基づいて構成される
数学が好きだ。
公式を覚え、それらに当てはまることで導き出される解。
一つが明るみになることで数珠繋ぎに解き明かされてゆくそのプロセスは、さながらピタゴラスイッチを見ているような感覚。
人も、物事も、生活も、そんな風になれば良いのにと思っていた。
数学は、定まっている解を求めれば良いのだ。しかし、実生活は違う。
国語の文章問題のように、字数と意味合いさえ合っていれば正解となる。
登場人物の感情は受け手によって左右される。
それ故に私は国語の方が得意だ。しかし、苦手だ。好きなのだけれどね。
数学は裏切らない、と思っていた。
しかしそれは数式が当てはめられる点Pもたかしくんも無機物だから。
人の質感を持ち、心を持ち、演算通りに動かせぬ何かを持ち合う誰かと誰かを、数学では解き明かさなかった。
一つ80円のみかんと、一つ150円のりんごの物価は変わるし、たかしくんのお兄さんだって寄り道することもあるだろう。恋人が出来れば恋人の歩幅に合わせてゆっくり歩くだろうし、たかしくんだってそれを察して別の道を歩くかもしれない。
それを知っていながら知りたいのです、あなたが何を思うのか。
それからどうするのか。
感覚質は不均一である。
故に私が感じ得る全ては私だけのもので、あなたのそれとは全く違うものかもしれない。それでも教えて欲しいのです。
いつか全て忘れ、この世界を構成する何かに変容しようとも、あなたを憶えていたい。憶えていて欲しい。
言葉はいつでも不完全で、だから言葉を一つの記号として並べては崩して並べては壊して、僕らは僕らの間をそれらで渡し合うのです。
言葉が泳ぎ切れない距離を、私達は個性と呼びますが、それさえも繋いでしまう何かを知っているのです。
この世界には幾つかの避けては通らない数式があります。
それらが世界を構成しているのです。
しかしながら、それらの数式同士を律儀に繋ぎ合わせると簡単に矛盾が生じてしまうのです。何故なら数式は不完全だから。それは、不完全な人間が作り出したものだから。
私達はそれらの数式を自分の肌に馴染むように取り分け、組み合わせ、自分の世界を作らなければなりません。
それ故に、他人のそれとは上手く噛み合わないこともあります。しかし、それは全く、おかしく無いことなのです。
あなたの表面に何があろうと、あなたの裏側にあるものに気付ける他人は少ない。
あなたが隠している間中、あなたは他人の中では透明人間かもしれない。
あなたが隠れている間中、あなたを探している誰かが居るかもしれない。
あなたの表面がどうであれ、あなたを愛しく思う誰かがあなたの中身を知らなくても、それは誰のせいでも無いのかもしれない。
ただ、誰かの直線的な思想や、一つの意見によってそれまでの感情を違えてしまう人。
それはあなたにとってどういう存在だろう。
あなたのことを見ようとしてくれない誰かに対して、あなたは泣くでもなく、怒るでもなく、見て欲しいと願うかもしれない。
それは本当に誠実だろうか。
いつからそうしているのだろう。
本当は最初から何も見てくれてなんていなかったのかもしれないね。
これからどこへ行くのだろう。
嫌いなものが増え続ける世界で見つけた話。